iOS

2024.07.18

Appleのデザイン哲学とApple Intelligenceがもたらす革新的UXとは

  • Appleのデザイン哲学とApple Intelligenceがもたらす革新的UXとは

こんにちは!株式会社Cosmowayが組織するデジタルプロダクション「factory4」のUIUXデザイナー新谷です。

先日、Appleが開発者向けイベント「WWDC24」で次期OS「iOS 18」の詳細を発表しました。ホーム画面のカスタマイズ機能、アプリアイコンやウィジェットの配置、プライバシー関連機能の強化、メッセージのサポートなど、数多くの新機能が追加されましたが、とくに注目すべきはAI「Apple Intelligence」の統合です。

Appleは、その優れたデザイン哲学にもとづき「Apple Intelligence」をOSと深く統合。これまでにないユーザー体験を提供しようとしています。今回は、この革新的な統合がもたらす影響について考察していきます。

※今回の記事はウェブマガジン「CreatorZine(クリエイタージン)」さんに寄稿させていただいた記事の追記、更新版となります。

 

Apple IntelligenceとOSのシームレスな統合

Apple IntelligenceとOSのシームレスな統合

出典:Apple Intelligence Preview – Apple

他社のAI統合型OSは、対話型AIをOSやウェブブラウザに追加するアプローチが一般的です。これに対しAppleの「Apple Intelligence」はOS全体に深く組み込まれており、各機能がシームレスに連携するよう設計されています。このアプローチは、ユーザー体験をより直感的でシームレスなものにし、他社製品との差別化を図っています。

Apple Intelligenceは、音声アシスタントのSiriとの連携を強化し、文字入力による指示を可能にしました。これにより、音声やテキストを使って自然な指示を出したより柔軟に利用したりすることができるようになります。さらに、各アプリケーションにもAIが深く組み込まれており、文字や画像の編集機能などにAIを活用することで、OS全体との緊密な統合を目指しています。

「パーソナルインテリジェンスシステム」と謳っているように、ユーザーがどういった人物なのか、置かれている状況やどんな補助が必要であるのかなど、よりパーソナルな部分を理解し、単なる便利な機能ではなく知性のあるシステムとして設計されました。

ユーザー体験の深化とカスタマイズ性の向上

アイコンのカラー変更やダークモード対応、ウィジェットやコントロールセンターのカスタマイズなど、AI以外に視覚的にもパーソナルな変更が可能になります。これにより、ユーザーは自分の好みに合わせてデバイスをカスタマイズし、よりパーソナライズ化された体験を享受できます。

ユーザー体験の深化とカスタマイズ性の向上

出典:Apple Newsroom

また、iOS 15の時点で欧米にて先行導入されていた「Tap to Pay」機能が、日本でも利用可能となるようです。これにより、iPhone同士でのタッチ決済ができるようになります。この「Tap to Pay」の詳細は今回割愛しますが、この機能は決済処理をよりパーソナルにし、デバイス間で売買を簡潔できるようにする革新的な仕組みです。また「iPadOS 18」に新たに追加され、手書きの数式を認識したうえで計算やグラフ表示を行う「Math Note」機能はとくに注目を集めています。これらの機能強化により、Appleのデバイスはより多様なニーズに対応し、ユーザーの生活を豊かにします。

Apple Intelligenceの5原則とは

Apple Intelligenceの5原則とは

出典:Apple「WWDC24基調講演 Apple Developer」

WWDC24の基調講演でCEOのティム・クック氏が語ったApple Intelligenceの5原則は、AppleのAIアプローチを理解するうえで非常に重要です。

重要なことに対してパワフルであること
AIはユーザーにとって本質的な価値を提供するため、重要なタスクを強力にサポート。

直感的で使いやすいこと
複雑な操作を必要とせず、誰でも簡単に利用できる設計が施されていること。

プロダクトと深く結びついていること
AIはOSやハードウェア、ソフトウェアと密接に連携し、一貫したユーザー体験を提供。

ユーザーを理解しパーソナルであること
個々のユーザーのニーズや状況に応じたパーソナライズされたサービスを提供。

プライバシーを守ること
ユーザーのデータは厳重に保護され、プライバシーが最優先されること。

これらの原則にもとづき、Apple Intelligenceは単なる生成ツールやチャットツールではなく、ユーザーに寄り添い、ニーズを理解する知性的なシステムとして設計されています。

 

よりパーソナライズされるAI

シームレスな機能の可視化と操作性

ほかのAIチャットサービスでは文字入力欄が脇に表示される対話型ウィンドウにこちらが指定したプロンプトを書く必要があります。これに対しApple Intelligenceは、ユーザーがもっともよく活用するであろう操作、たとえば、「説明する」「箇条書きにする」「内容を表にする」などをメニューとして提供します。また文章の整形や要約もシームレスに適用され、特定のニーズに応じて声や文章で指示をカスタマイズすることも可能なため、ユーザーは必要な情報や機能に迅速かつ直感的にアクセスできます。

よりパーソナライズされるAI

出典:Apple Newsroom

また、言葉を深く理解する能力は、通知やメールにも適用されます。メールの管理が簡単になる新機能として発表されたのは、「受信ボックスの先頭に緊急性の高い優先メッセージが表示され、各メールの要約を確認できるようになる」というもの。長いスレッドはタップで詳細を表示し、スマートリプライが返信提案や質問の特定を行います。通知では、重要な優先通知が上部に表示され、要約が長い通知の確認を助けます。集中モードは、重要な通知のみを表示し、ユーザーが作業に集中できるようになるなど、いっそうのパーソナル化が進みました。

よりパーソナライズされるAI

出典:Apple Newsroom

ユーザーをより深く知った音声アシスタンス

見た目が刷新された「Siri」は、一段と強化された言語処理能力により、文脈を深く理解し、より自然な対話が可能になりました。多少の言い直しや間を理解する能力が向上し、以前の会話内容を記憶する機能も備えています。これにより、ユーザーとの対話がよりスムーズになります。

Siriを起動すると、画面全体に美しい光が広がります。これは、システム体験が深く統合されていることを示す視覚的な演出です。このような、大きな変化ではないエフェクトが、AppleのUXを心地よく感じさせる要因となっています。また、機能が次のフェーズに移行したことをユーザーに認識させる効果もあると思います。

よりパーソナライズされるAI

出典:基調講演 – WWDC24 – ビデオ – Apple Developer(1:16:52)

また、音声入力に加えて、テキストでの指示も可能になりました。これまでiPhoneを持っていてもSiriを使用しないユーザーが多かった理由のひとつは、外出先では話しかけにくい状況が多々あるなど、音声に依存していたからでしょう。今後は状況に応じてテキストで指示を出すことにより、Siriが意図を汲み取ってアクションを起こしてくれるため、利用シーンが広がります。

よりパーソナライズされるAI

出典:Apple Newsroom

さらに、SiriおよびAppleのプラットフォーム全体に統合された記述ツールには、ChatGPTへのアクセスが組み込まれています。これにより、ユーザーはアプリやツール間を行き来することなく、ChatGPTの専門知識や画像・文書の理解機能にアクセスできます。たとえば、メールの内容を要約したり、複雑な問い合わせに対して適切な回答を得たりすることが可能です。この統合により、ユーザーの体験はよりパワフルなものになります。

 

AIプラットフォームの新しいプライバシー保護

AIプラットフォームの新しいプライバシー保護

出典:Apple Newsroom

Appleは優れたプロセッサの開発により、多くのAI処理をオンデバイスで行うことを可能としてきました。通信やクラウドサービスにデータを送る必要がありません。

Appleのプライバシーに関する原則
データの最小化
デバイス上での処理
透明性の向上とユーザーによるコントロール
セキュリティ
参考:Apple「あなたのデータの一日」

しかし、デバイス上で処理しきれない高度な処理が必要な場合には、「Private Cloud Compute」により、プライバシーの新しい処理が適用されます。この技術により、次のようなプライバシー保護が実現されています。

匿名化
データは専用のAppleシリコンを搭載したプライバシーに配慮されたサーバーに送られ、匿名化されます。これにより、個人情報が特定されるリスクが極めて少なくなります。

最小限の情報送信
必要最小限の情報のみが送信される設計になっており、ユーザーのプライバシーが最大限に保護されます。

データの非保存
リクエストがPrivate Cloud Computeにルーティングされる際、データは保存されず、Apple自体がアクセスできないようになっています。これにより、ユーザーのリクエストに応えるためだけにデータが利用されます。

この徹底したプライバシー保護は、Appleが長年培ってきたプライバシーに対する姿勢と信頼にもとづいており、ユーザーが安心してAI機能を利用できる環境を提供します。これは他社と比べて、とくにAppleが優位となるポイントでしょう。

Apple Intelligenceにおける「ChatGPT」の位置づけ

Appleは、プライバシーに配慮したオンデバイス処理を行う自社開発のAI「Apple Intelligence」と、専門的な知識が必要とされる場合に外部のAIであるChatGPTを連携させるハイブリッド型アシストを採用しました。ユーザーの要求に対し、Apple Intelligenceが対応可能な範囲で処理を行い、専門的な知識や深い理解が求められる場合にはChatGPTと連携します。

Apple Intelligenceにおける「ChatGPT」の位置づけ

たとえば、法律に関する詳しい説明や科学論文の解釈といった専門知識を必要とするリクエストには、Apple IntelligenceがChatGPTに処理を依頼するかどうかをユーザーに確認。ユーザーが許可すれば、ChatGPTがリクエストを処理し、その結果を提供します。

このハイブリッド型アシスタンスの導入により、Appleは一貫したプライバシー保護のポリシーを守りながら、高度な専門知識が要求されるタスクにも柔軟に対応できるため、サービスの信頼度はとても高くなります。多くの競合企業がAIの利便性や先進性を前面に打ち出すなか、Appleは「信頼されるブランド」という企業理念をなにより優先しているのです。

 

まとめ

今回はApple Intelligenceを通して、Appleの「ユーザー体験、ハードウェアからOS、アプリ、ソフトウェアがフルスタックで統合されていることのすごみ」のようなものを強く感じました。この統合されたアプローチは、シームレスなUXの実現を目指してデザインされています。そしてその革新性は、テクノロジーを扱う技術者やクリエイターだけでなく多くのユーザーを取り込み、日常的にAIを活用したり、より効率的な体験を自然に享受できたりするようになるのではないでしょうか。

このように、Appleが深いレベルでAIとOSとの統合を行い、かつセキュリティーを担保したことはUI/UXデザインにおけるひとつの指針となり得るでしょう。また、他社製品との差別化を図り、ユーザーの日常生活を革新する存在としての地位をさらに強固なものにしているように感じました。日本用にローカライズされるのはまだ先のようですが、それを楽しみに待ちたいと思います。

この記事がUIUXデザインを考えるひとつのヒントとなれば幸いです。それではまた次回の記事でお会いしましょう。

 

こちらの記事もおすすめです

様々なサービスやプラットフォームを通じて、UIUXデザイン関連の考察を連載しています。ぜひこちらもご覧ください。

CreatorZine

今回の記事はウェブマガジン「CreatorZine(クリエイタージン)」さんに寄稿させていただいた記事の追記、更新版となります。企業で働くクリエイターをサポートするウェブマガジンです。こちらもどうぞご覧ください。

 

Contact

UIUXデザイン・広告デザイン・アプリ制作承ります