UIUX

2022.08.04

スマートフォンのカメラがもたらした新しい価値観と体験から学ぶ、UX向上のヒントとは

  • スマートフォンのカメラがもたらした新しい価値観と体験から学ぶ、UX向上のヒントとは

こんにちは!株式会社Cosmowayが組織するデジタルプロダクション「factory4」のUIUXデザイナー新谷です。
今回は私たちにもっとも身近なテクノロジーであるスマートフォンの「カメラ」にフォーカス。技術進化がユーザーに何をもたらしたのかを考察し、UX向上のヒントを探ります。

スマホで写真を撮ることはが日常的に珍しいものではなくなり、今やカメラは私たちの身体の一部のような存在になっていると思いますが、スマホに、いや、ガラケーと呼ばれる携帯電話にカメラ機能がついたのはいつのことだか、皆さん覚えていますか?

 

世界初のカメラ付き携帯電話

世界初のケータイカメラは日本で誕生しました。22年ほど前、1999年9月に発売された京セラ製のDDIポケット端末(現・ウィルコム)の「VP-210」です。インカメラのみ搭載されており、テレビ電話用に開発されたのが始まりです。

出典:VP-210 – Wikipedia

2000年11月に登場したJ-フォン(現ソフトバンクモバイル)のシャープ製端末「J-SH04」は爆発的にヒット。携帯電話のカメラ普及のきっかけともなった象徴的な端末となり、当時のCMもとても印象的でした。

出典:シャープ「モバイルカメラ付き携帯電話|商品ヒストリー」

携帯の背面にカメラのレンズが付き、自撮りもできるようにレンズの横に小さなミラーが設置されていました。さらに「J-Sky」に対応した機種同士では撮影した写真をメールに添付して送ることができるように。現在でも「写メ」というワードを耳にすることがあるように、これが「写メール」の誕生です。

そして個人的には「写メール」という言葉の響きに「キャッチーさ」を感じました。このようなシンプルで印象深い名前を付けたことが、新しいサービスや概念にユーザーを惹きつける一因だったと思います。携帯でメールを送るという日常のストーリーから紐づいた発想・開発が大きなヒットにつながったのではないでしょうか。

 

パーソナライズ化が進み飛躍的にUXが向上した

常時持ち歩く携帯電話にカメラが搭載されたことで、意識してカメラを持ち出さなくても、いつでも写真が撮れるように。気軽にいつでも撮影ができ、撮った写真をその場で見たり確認するだけでなく、ネットワークやクラウドを通じて保存したり、離れた場所にいる人たちにも送信・共有することができるようになりました。

今では想像がつきませんが、カメラが携帯電話に搭載されるまでは、写真を撮るという行為は、目的を持ってカメラを持ち出した人たちのものでした。一眼レフカメラやコンパクトカメラ、写ルンですなどトイ系のカメラなどがそれにあたります。

 

主流となったスマートフォンとそれを支えた技術的進化 

2008年以降、iPhoneやAndroid搭載のスマートフォンの発売で市場が一気に変化。各キャリアはこぞってスマートフォンの発売を開始していきます。ネットワーク環境も整備されはじめ、急速なカメラ機能の進化やSNSの普及、日本で主流となっているLINEといったコミュニケーションツールの登場などにより、スマートフォンはユーザー体験の面でもより生活に身近で便利なツールへと変わっていきました。

なかでもSNSによって「写真を撮る」というアクションがより一般的に、パーソナルを表現するひとつの重要な要素として認識されるようになりました。そしてそれは、アイデンティティにも影響を与え始めます。

テクノロジーの進化とともに共鳴してきたカメラアプリ
カメラ機能は端末などのプロダクト、テクノロジーの進化とともに、共鳴しながら進化してきたと言えるでしょう。

振り返ってみると、たとえば日本でスマートフォンが普及するきっかけとなった「iPhone 3G」は2008年に発売され、物理的なボタンからタッチスクリーンに進化。それにともないカメラアプリもひとつの大きな転換期となっていきます。画質の向上はもちろん、画面の大きさやタッチパネルが進化することで視認性やインターフェースが大きく変化し、よりカメラとしての機能性が向上していきます。

今や写真を撮る行為は日常の一部となり、「その撮影したデータをどうするか」というアクションが重要となっています。自分で撮影したものをどう表現するか、そしてどう扱うかなどにも多様性が求められているのです。たとえばInstagramやTikTokといった、より刺激的な体験を得るためのアプリやプラットフォームが連動することで、相互に進化してきています。

 

2極化されつつあるカメラの活用領域

今、カメラの市場や用途は大きくふたつに分類されたと言っても良いかもしれません。それはビジュアル的に、また動画撮影も含め高品質志向のハイエンドなフルサイズ一眼レフカメラ(またはミラーレスカメラ)と、手軽さと即応性の点で優れ、インターネットとすぐに連携することができるスマホカメラのふたつです。

もちろんコンパクトやフィルムカメラ、トイカメラなど需要はまだまだありますが、10年前のデジタルカメラ販売市場からすると6〜8割ほど縮小傾向にあると言われています。数年前に某大手カメラメーカーがコンパクトカメラ市場から大幅縮小を発表したことは大きなニュースにもなり、とても印象深い出来事でした。

コンパクトカメラ市場縮小の一因としては、スマートフォンカメラの普及が大きいと言えるでしょう。そのおもな理由は次の3つだと考えています。

3つの理由

1.テクノロジーが進化しコンパクトカメラのスペックと同等またはそれを超える機能が搭載された
2.スマートフォンを常に携帯することでいつでも手元にあり使用できる
3.通信やアプリと連携することでスマホからデータ送信や共有が容易になった

これらの理由をみても、スマートフォンのカメラ性能の向上が市場をも大きく変えてしまったことがわかります。しかしこれらは高画質なビジュアル面や技術的な要因に焦点が当たりがちですが、UXデザイン、いちばんのポイントはユーザー体験が大きく向上したことなのです。

常に持ち歩くデバイス(スマホ)自体に高性能なカメラが搭載され、カメラを持ち出す必要がなくなりました。あえてカメラを持ち出さずとも常に手元にあり、ポケットの中にある小さなデバイスでいつでも撮影することができます。撮影されたデータはさまざまなサービス、プラットフォーム、アプリなどで送信や管理ができるように。本来カメラ単体ではできなかったことが、スマホひとつで完結できるようになったのです。

 

新しい価値観がユーザー体験を向上させ市場を変えた

技術的な進化を遂げる中で、ユーザーそれぞれのストーリーに寄り添うことができるようになりました。ちょっとしたスナップやポートレート、集合写真や旅行先、ペットや食事の写真など、クオリティを保ちながら誰でも手軽にスマホカメラで撮影することができます。

今まではカメラ職人しか持ち得なかった知識やテクニックをスマホから簡単に学ぶことができたり、スマホ自体が自動で最適化し処理してくれます。その結果、芸術性の高い写真や動画を一般ユーザーが簡単に共有し評価されるという体験を得ることができ、ユーザーが主のストーリーが増えることになります。

写真や動画を撮るというアクションが容易になり、さまざまなアプリやSNSとの連携も可能になりました。より便利で即応性が高いツールとなったスマホカメラはユーザー1人ひとりをカメラマンに変えてしまったと言っても過言ではありません。今やYoutubeや配信サービス、Instagram、TikTok、Snapchatなど、カメラと連動したサービスが個人の表現方法を広げています。

前述したとおりこういったSNSやアプリなどで活用されるカメラは、一眼レフに代表されるような「ハイエンド」またはスマホがマッチする「即応性」のカテゴリーでおもに使用されます。ユーザーのストーリーを紡ぎ、ニーズと時代にマッチしたカメラは、市場や新しいサービスとともに進化を続けています。

また、これから期待される「メタバース」では人々が欲しがるコンテンツをゼロからつくり出すクリエーターが、新しい市場をつくることになるでしょう。それらの領域に携われることはデザイナーとしてとても興味深く、楽しみでもあります。

カメラから見る、UX向上のヒントとは

ここまで考察してきた中で、ユーザー体験向上のヒントとなるものはユーザーの「ストーリー」と「手軽さ」、「愛着」にあると考えます。いくら映像のビジュアルが美しいものになっても、それが日常で活用できない、または扱いづらいものであれば意味がありません。ユースケースとユーザーのストーリーをスムーズに遂行し、その先のゴールにたどり着くことができるか。これが重要なのです。

 

今後、スマホカメラは一眼レフカメラをも凌駕するのか

スマホのカメラがコンパクトカメラやエントリーモデルの一眼レフの価値を変化させていきました。同様に今後、ハイスペックなフルサイズ一眼レフカメラにも追いつく、またはそれを追い越し、価値観を変革させる可能性はあるのでしょうか。その答えはとても簡単であると同時に、非常に複雑です。

まず現状の技術では、スマホカメラが高性能一眼レフカメラを追い越すことは基本的にはないと断言できると考えています。その理由として、カメラに搭載されているイメージセンサーサイズが、カメラの基本性能の根幹を担うからです。カメライメージセンサーが大きいほど光を多く取り込めるので、ダイナミックレンジが広くなり、それにより白とびや黒つぶれを低減し、自然なボケを表現。大きさと性能は、ノイズの出方によって差が生まれます。

スマートフォンはデバイス自体が一眼レフカメラよりも小さいため、この大きなイメージセンサーを搭載することができません。またレンズの口径サイズの大きさにも影響されるため、物理的な観点でみても実装することは極めて厳しいでしょう。

絞り値はF2.5〜F2.8で撮影しています。

同じ画像を同じ状況で撮影してみても、ビジュアル的にはかなり表現力に違いがあると思います。空気感や被写体の質感、輪郭のボケ味にかなり差が出ています。光の少ない暗い状況で撮影するとノイズも含めさらに顕著に差が出ます。しかし、画像処理プロセッサやニューラルエンジンの性能は日々進化しており、スマホカメラの領域は常に拡大し続けています。

iPhoneを例に挙げると「iPhone7Plus」以降登場した「ポートレート機能」などは、それまでできなかった背景をボカすことを実現していますし、「ナイトモード」では夜や暗闇で発生したノイズを、デジタル処理(※)によって一眼レフカメラとは別のアプローチで処理することを可能にしています。

※:シャッターボタンを押す前から常に画像をセンシングし、ボタンを押す直前の複数枚の露出の写真と、シャッターボタンを押したときの長い露出の写真を活用し、最適に仕上げること。

 

まとめ

スマホの技術進化とカメラは、ユーザーの生活スタイルや新しい自己表現方法にも影響を与え、新しい価値を生み出してきました。これまでの歴史でも技術が写真の撮りかたや使用方法を変えてきましたが、この先もまだ、写真自体やそれを取りまく状況や価値観をデジタル技術は変えていくはずです。ここで大切なのは、デバイスの高性能化ではなく、ユーザーに寄り添い新しい価値を提供することで、ユーザーが体験するストーリーを新たなゴールへと導いたことでしょう。

今もフィルムカメラがなくならずそのユーザーが絶えないのは、そこに技術進化や高機能では表現できないニーズやストーリーがあるからです。

UIUXデザイナーは最終的に「人」のためにサービスやプロダクトをつくっていくべきだと感じています。人やプロダクト、環境や技術との関係性をより深く洞察し、つなぎ合わせることで新しい価値へと導けるのではないでしょうか。この記事がUXデザインを考えるひとつのヒントとなれば幸いです。
以上、新谷でした。ありがとうございました!!

 

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今回の記事はウェブマガジン「CreatorZine(クリエイタージン)」さんに寄稿させていただいた記事の追記、更新版となります。企業で働くクリエイターをサポートするウェブマガジンです。こちらもどうぞご覧ください。

 

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