UIUX

2022.02.03

デザイン領域が拡大する――新しいUXデザインのひとつ「VUI」の進化がもたらすユーザー体験とは

  • デザイン領域が拡大する――新しいUXデザインのひとつ「VUI」の進化がもたらすユーザー体験とは

こんにちは!株式会社Cosmowayが組織するデジタルプロダクション「factory4」のUIUXデザイナー新谷です。今回は私たちの身近なテクノロジー、サービスとなりつつある「VUI」について、この先どのような影響を及ぼすのかをUIUXデザインの視点から考察していきます。

 

Voice User Interfaceとは

まず「VUI」とは何かと言うと、「Voice User Interface(ボイス・ユーザー・インターフェース)」の略です。

新しいUXデザインのひとつ「VUI」

AIを活用して、声によるインターフェースや音声を認識・理解して質問に答えたり、テキストを音声に変換して返信することで、あらゆる情報のやりとりを行い、コンピューターと人との対話を可能にします。人にとって自然なコミュニケーションである「声」を使ってコミュニケーションを行う、身近な中での最新テクノロジー分野のひとつです。

たとえばスマートフォンやスマートスピーカーに代表されるように、音声でのアシスタント機能搭載の端末が普及しはじめ、画面上でのタッチインターフェイスに加えて、音声入力のインターフェースも登場してきました。

これにともない、“デザイン”が及ぶ対象の領域も、画面だけではなく音声も含めた体験全体へと拡大してきています。

 

生活に浸透し始めた「VUI」

人が使う「自然言語」は、機械学習の進歩により文脈に合わせて適切な会話を理解し、反応することが可能になってきました。

VUIもさまざまなシーンで活用されています。街でVUIが搭載されたロボットやスマートスピーカーなど、AIで自動応答するシーンを見かける機会も増えてきています。スマートフォンに搭載されたAIアシスタンスの精度向上やワイヤレスイヤホンの普及なども、AIを相手に会話する行動を促進している要因のひとつだと考えられます。

新しいUXデザインのひとつ「VUI」

身近にあるVUIの代表例としては、iPhoneの「Siri」やAndroidの「Googleアシスタント」、スマートスピーカーではAppleの「HomePod mini」やAmazon「Amazon Alexa」などがあります。

新しいUXデザインのひとつ「VUI」

電話をかける、アラームやタイマーを設定する、地図など目的地への道順をナビゲーション、天気や交通情報を調べる、音楽を再生する、部屋の電気をON/OFFするなど、数多くのアクションで、わたしたちユーザーをサポートしてくれます。

 

VUIの優れている3つの特徴

1. テキスト入力よりもスピーディー

行いたいアクション、伝えるテキストの内容や長さにもよると思いますが、モバイル端末での音声入力のスピードはテキスト入力より早いため、より素早くアクションすることができます。

日本語でのテキスト入力では、漢字やカタカナ、全角半角などの複雑な入力や変換があるため入力速度に差がありますが、音声入力はテキスト入力での複雑な操作や検索の手間を減らし、瞬時に操作することを可能にしてくれます。

2. ハンズフリーでも操作可能

画面をタップするなど基本的には手を使わなくても入力ができるので、継続的にタッチできない、または離れた場所にある場合などでも対応できます。音声入力に置き換えることで、車の運転中や手が濡れていてタッチしづらい料理中でも操作が可能です。私も料理中のタイマー設定などで使用しています。

新しいUXデザインのひとつ「VUI」

物理的な側面でいくと、スマートフォンやスピーカーに限らず、冷蔵庫に音声機能が追加されたスマート冷蔵庫なども数多く登場してきています。

3. 学習コストがかからない

普段から行っている「人との会話」に限りなく近いため、基本的にはスマートフォンやPCのテキスト入力やスワイプ操作などと比べて学習コストが低いです。音声で語りかける状況に慣れてしまえば、とてもスピーディーに入力操作をすることができます。

ユーザーがすぐに使いかたを学習できるということは、操作の迷いを減らすことができるので、初めて操作する際の障壁を下げることが可能です。

 

VUIにおける3つの気になる課題とは

1. プライバシー問題や環境に左右される

音声入力を行う際には声を発する必要があります。そのため、行いたいアクションや固有名などが周りにいる人に筒抜けになってしまいます。連絡先や行き先、スケジュールなどを確認する場合、機密情報に関わることが周囲に聞こえてしまうかもしれません。さらに、これらは、人からの音声入力だけでなく、VUI側からの返答に対しても気を付けなければなりません。また、人の多い公共の場や、音声を発することが難しい静寂を基本としている図書館といった環境など、そのほかさまざまな状況に影響されます。

2. 音声の誤認識がおこる

ディープラーニングにより、画像認識型のAIは人を超えるようなレベルに進化してきましたが、音声認識型AIは発展途上と言えると思います。地下鉄や幹線道路など騒音がある環境では、会話の文脈や長い文章のワードなど正しく認識することが難しいです。また、同じ空間にVUIが複数存在した場合の誤認識なども考えられます。

3. 機械に話しかける不自然さ・恥ずかしさ

日常的に、機械(スマートフォン、ロボットやスピーカーなど)に向けて話しかけるという体験には、違和感や気恥ずかしさを覚える方も多いのではないでしょうか。個人差もあると思いますが、お店などのVUIサービスを活用する時など、まだまだ抵抗を感じる状況もあるでしょう。

以前北欧の友人たちとLINEなどでやりとりした際に、ボイスメッセージで送られてくることが多かったのがとても印象的でした。理由を尋ねると「このほうが早いし意思が伝わるでしょ」という回答でした。

欧米では日本よりもメッセージを声で発することに慣れているように感じます。これはカルチャーの違いもあるかもしれません。
以上の3つの課題にあるように、ユーザーの環境や心情を配慮して、情報を入出力する際の状況を適切に設計する必要があります。

 

身近にある「VUI」アシスタント事例

街中ではPepperをはじめ、音声を認識するロボットが数多くみられます。教育現場や店頭の受付、空調情報表示や商品説明など一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。

カーナビもVUIが活かされている分野です。運転中は手が離せませんしスマホを見ることもできません。そんな中、目的地への道順、天気や交通情報を調べたり、音楽をかけたりすることが可能です。

 Amazonの「Amazon Echo」では本の読みあげ、買い物、翻訳、スポーツや株価といった結果の確認、スマートホームデバイスで制御し、部屋の照明やリモコンを操作することなどが可能です。

また2017年に、アメリカのスターバックスコーヒーがiOSアプリにて音声コマンドで注文ができる「My Starbucks barista」機能をリリースし、話題となりました。(日本では事前注文はあるものの、音声注文サービスは見当たりませんでした)

出典:My Starbucks Barista|BlogNT

弊社スタッフのVUI(スマートフォン・スマートスピーカー)活用方法として多かったものは、次のとおりです。

タイマーとしての利用
単語検索
地図道順検索
翻訳
音楽再生
スマートホーム制御(ドアの解錠/施錠、照明ON/OFFなど)

これらをみても、さまざまな目的と環境、状況が存在します。VUIといっても、ユーザーの目的や環境に適したVUIデザインが必要になってくることがわかると思います。VUIはユーザーの目的を素早く直感的に伝えることができハンズフリー操作することが可能ですが、一方でマルチタスクな状況には不向きと言えるかもしれません。

 

今後求められるのは、より正確で人間のようなAIアシスタント

課題にも挙げましたが、音声認識型AIは発展途上であり、会話の誤認識であったり、環境に左右される要素も多くあります。その中でより精度を高めていくことは重要ですが、今後はより“人間”のようなAIアシスタンスが求められるはずです。

音声を人格の一部とすると、音声はその機械のアイデンティティの一部になります。そしてそのインターフェイスとやりとりすると、ユーザーは実際の人間と接する場合と近い感覚を経験することになります。今後は音声とビジュアルモーションのふたつをデザインすることで、さらにこの感覚を強めることが重要です。

視覚と音声による明確なフィードバックがあれば、ユーザーはシステムとのインタラクションをより理解することができます。また音声と合わせて視覚的なフィードバックがあればユーザーはシステムの現在の状況を知ることが可能です。それは、システムがリクエストを受け取り、処理しているということを確認することができるからです。

この先AIアシスタントは、スマートフォンをはじめとしたディスプレイ付きのVUI端末において、VUIとGUI(グラフィックユーザーインターフェイス)のそれぞれの特徴を活かしながら、音声とグラフィックを融和させたデザインが必要になるのではないでしょうか。

 

Appleの「Siri」は身近にある超高性能な音声AIアシスタント

iPhoneなどに搭載されている「Siri」は音声を分析実行し継続的に使用することで、ユーザー個々の言語使用や検索、および好みに適応することができます。

2021年9月21日にリリースされた「iOS 15」では、タイマーやアラーム、電話、メッセージ、共有、アプリの起動、オーディオの再生、設定などの機能をオフラインでも使うことができ、即応できる身近な超高性能AI音声アシスタントと言えると思います。

プライバシーの観点では、Appleのビジネスモデルが個人情報の収集に依存していないため、最初からユーザーのプライバシーが守られるように設計されています。「Siri」へのリクエストもふくめ、データは可能な限りデバイス上で処理され、できるだけ少ない量のデータでサービスが提供されます。

また、ユーザーのApple IDや電話番号を使ってユーザーを識別することをせず、データ処理中に各データを追跡できるよう、ランダムな識別子を用いています。さらに保護を強固なものにするため、6ヵ月を経過したデータはランダムな識別子から切り離されます。
(参考サイト:Siri のプライバシー保護とグレーディングについて)

スタンドアローンで効率よく活用できる「Siri」は、即応性、プライバシー保護などの点でほかのサービスより抜きん出ていると思われます。

 

UI/UXデザインの領域にも拡大するVUI

人々の生活の中にVUIを浸透させ、豊かなユーザー体験をつくる――。そのためには、いつ、どこで、どのようなシーンに音声アシスタントを活用するのか、適切に設計していくことが大切です。そうした背景から「VUI/VUX」というデザイン領域が、新たなジャンルとしても必要とされる時代になってきているように思います。
最近、UIデザインやビジョン、プロタイプ作成ができるAdobeのソフトウェア「Adobe XD」のアップデートにより、音声コントロール機能をプロトタイプに組み込むことが可能となりました。音声コマンドを使用したデザインプロセス作成ができるようになったことで、音声アプリケーションの初期段階からデザイナーが関与できるようになりました。プロトタイプの段階で組み込むことができるのは、とても効率が良くなります。(参考サイト:「Adobe XD」音声機能付きプロトタイプのデザイン)

これによりデザイナーは、ユーザーとデバイスのやりとりを設計し、ユーザーが目的を達成するためのスムーズなシナリオを考え、音声がある生活シーンそのものをデザインしていくことになります。

スマホやスマートスピーカーなどVUIが浸透しはじめているものの、現時点では私たちの生活の中で音声が十分に活用されているとは言えない状況です。音声がどのように生活に介入し、寄り添いながら豊かな体験を生むのか。その未来の体験を描くことが、新しい「UXデザイン」のひとつだと考えています。

たとえば、鏡に問いかければ体調や天気で服装を提案してくれたり、顔色や季節によっては体調を気遣ったり、メイクを提案してくれる。そう、鏡やセンサーがユーザーの声や外観、環境などにインタラクションし、まるで「人」のように提案や問いかけを行うプロダクトも夢ではないはずです。

 

まとめ

VUIは人が普段から日常的に使用する声や会話をトリガーにユーザー体験を提供します。しかし、ユーザーの利用状況や環境に大きく左右されるため、課題はまだまだ多いことがわかります。

さらにVUIは、人の意図や使用する環境を理解できるかどうかで体験が大きく変わるため、自然言語処理などの技術レベルにも依存してしまいます。しかしそういった課題がある中でも、VUIが生活の利便性を上げたり、新しい体験を生み出す可能性は大いにあるのではないかと期待しています。

現在、ありとあらゆるものがネットワークにつながる時代を迎えています。すでにはじめからIoT化された住宅やスマートホームなども登場していますし、これからは今以上にVUIが活用されるシーンが増えていくでしょう。

UIUXデザインに関わるデザイナーとしてこういったVUIの特性を理解すること。常に新しいテクノジーに触れながら世の中のニーズをとらえること。より良い可能性を模索しながらデザインすること。こういった行動によって、新たな体験を創り出せるようにしていきたいです。

次回以降は、Apple Watchなどの「AssistiveTouch」がもたらすUIUXについて掘り下げていきたいと思います。
以上、新谷でした。ありがとうございました!!

 

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今回の記事はウェブマガジン「CreatorZine(クリエイタージン)」さんに寄稿させていただいた記事の追記、更新版となります。企業で働くクリエイターをサポートするウェブマガジンです。こちらもどうぞご覧ください。

 

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