2018年、山梨大学さま・甲府商工会議所さまにより甲府市街地の人数のカウントおよび人の流れを可視化する「Wi-Fiパケットデータによる甲府市中心街地訪問者分析」の研究・データ取得機器開発への装置の選定・接続方法などを含めた技術提供をしました。
弊社デジタルプロダクションfactory4の事務所は、甲府駅からも徒歩で10分程度、甲府市役所や複合商業ビル「ココリ(KoKori)」のすぐ近くに位置しています。
そんな甲府駅周辺も、駅前ロータリーのリニューアルや北口の整備をはじめ、新しく防災新館やココリといった新たな建物ができたり、直近では山交百貨店が閉店したりするなど風景を変えています。オフィスや店舗も多く、平日も人通りのある市街地です。駅周辺では北口の広場における週末イベントや、季節ごとのお祭りも多く開催されており、週末を中心とした休日にも人の流れが多くあります。
そんな甲府市街地のより良いまちづくりの取り組みに向け、人流データや賑わい度のデータを生かしていけるよう、この研究が行われました。
人流データの計測に向けて
人流データ計測のため、2016年の八ヶ岳観光人流データのIoT計測研究を元に、スマートフォンから送信されているWi-Fi probe要求から人数や滞在時間を計測する手段を提案しました。
Wi-Fiに対応しているスマートフォンは、周辺にあるWi-Fiアクセスポイントを検索するために数十秒間隔でprobe要求というものを定期的に送信しています。
このprobe要求には端末位置IDなどの情報が含まれており、これを取得すればどのくらいの人数がいるのか、どれだけその場所にいるのかを知ることができます。加えて、多くの地点で取得できるようにすることで人の動線を把握することが可能です。
昨今このprobe要求においては、セキュリティ対策や不正な追跡を防ぐために送信される情報をランダムに生成するスマートフォン端末も増えてきており、低速の自動車の中からのprobe要求も取得できるため高精度のデータとはなりません。そのことに加え、固体を識別するMACアドレス等の情報を利用することは総務省で不可とされているため、八ヶ岳観光人流データのIoT計測研究に引き続きこの研究では個人を特定せず、どのように人が移動しているか・その場所がどのくらい賑わっているかという尺度を可視化するためにこの手法を利用することを提案しています。
装置の選定から設置
シングルボードコンピュータRaspberry Piに、probe要求を取得するためのモニターモードを搭載したWi-Fiドングルを給電型USBハブに差し込んで接続し、計測するための装置を制作します。
装置はサーバに常時接続されており、1日1回データを送信できるようになっています。サーバ側からは装置のリアルタイムな稼働状況を検知することができ、必要な際にはソフトウェアの修正を遠隔で行うことができます。
上記のように既存の機器を選定し、組み合わせてIoTの仕組みを使った装置を開発し運用できるシステムを構築できるよう、八ヶ岳観光人流データのIoT計測研究の経験を活かして装置制作の技術支援を行いました。
既存の機器の中から有効なものをリストアップし、制作中の不明点にも対応させていただきました。仕組みについても、Raspberry Piからデータを送るための通信を始めるにはどうしたら良いかなどをはじめ、よりシンプルに・よりコストパフォーマンスが良いものを提案しました。
そして、市街地内20箇所程度の場所の選定を行った上、この装置を設置しました。
Webサイトリニューアルと成果報告書制作
各装置から得られたWi-Fi probe要求を年月日ごとにまとめ、さらに1時間ごとに区切って、その時間帯に現れた数をカウントしたデータを、Webサイトで視覚的なグラフで見られるようになっています。
関係が強い地点が近くに配置されるサーバサイドでの甲府市中心街流動度図の描画、ユーザが引っ張って動かすことができる動的なグラフ表示、地図上への描画、地点間の通行量の時間変化、sankey図など、人の流れを「触って体験する」ことができるようなWebサイトになっています。
こちらは、弊社で既にあったWebサイトのリニューアルを行い、UI/UXデザインも含めて行いました。さらに、この研究の発表の際に配布された成果報告書も弊社にて制作しています。
結果
このように、Wi-Fi probe要求からの計測とサーバでの自動処理によって観測されたデータから街の賑わい度、人の移動状況を把握することができるよう弊社では技術提供やWebサイトリニューアルに協力することができました。
平日、休日、イベントのある日での人の流れを可視化することで、どの場所がどの時間帯に通行量が多いのか、一目でわかるようになります。現在でも山梨大学さまでの計測は続いており、Webサイトを通じて一般の方にも広くデータを見てもらうことが可能となっています。
Wi-Fiパケットデータによる甲府市中心街地訪問者分析
https://8tops.yamanashi.ac.jp/kofu/
今回は3箇所の屋内で行った八ヶ岳観光人流データのIoT計測研究よりもスケールアップし、設置場所としては屋外の軒下やアーケードへの設置もありました。
その中には埃がついて動作不良となってしまった箇所も見られたため、長期的な観測には雨や埃の影響を受けないような場所や、電源が安定して供給できる環境に設置することが望ましいという結果でした。
また、設置位置によって、Wi-Fi probeの情報を取得できる範囲が大きく変化するため、精度向上には同様な位置に設置すると良いということも分かり、今後の弊社での研究・開発にも活かしていきたいと感じています。
さらに、歩行量調査と比較するとWi-Fi probe要求からの計測は車による移動も含まれている可能性があり、交通手段の分別が課題となっています。
今後ランダムアドレス利用端末の増減も予想されますが、八ヶ岳観光人流データのIoT計測研究の際にも考えたように、技術が急速に進化していく現在、情報を偽装する、ランダム生成するなどのセキュリティ対策に対しても現在はAIを利用することで情報の推定も可能、さらにはBluetoohでもprobe要求の情報が取得可能なため、情報を取得するのにも方法は1つとは限りません。
まとめ
このようにスマートフォンから送信されているWi-Fi probe要求から人数や滞在時間を計測する手段は、市街地での流動調査、観光地の回遊状況調査などにも役立ちます。それぞれの地点の店舗や施設における集客活動などにもデータが役立つのではないでしょうか。
八ヶ岳では装置設置場所が3箇所でしたが、甲府市街地では20箇所程度に増えました。この規模になると、市街地での人の動きを視覚的・動的なグラフで見られることが一層面白く感じられます。
このように、様々な技術を用いて人の流れや人数といったデータを取得・蓄積、分析していくことだけではなく、その結果をWebサイトを通して多くの人に見てもらえるような仕組みを構築する協力ができ、大きな経験となりました。
通行量調査などは、現在まで人の目・人の手で行われてきました。しかし、人の動きをIoTによって可視化すれば、今まで見えなかったものを見出せる可能性があり、人の動きの傾向も掴めるようになります。
市街地・観光地・商業施設など様々な場所において、現存する最新の機器を組み合わせたり、AI等の最新技術を組み合わせれば、街中での人の動きに関してさらに興味深い研究・開発ができるのではないでしょうか。
甲府の街も今よりもっと多くの人が行き交う街になって欲しいという願いもあり、今後も地域創生・まちづくりに最新技術をどんどん活かしていける組織でありたいと思っています。